人生で初めてコンタクトを入れてみる
メガネもかけず、ずっと裸眼だったぼくはコンタクトとは無縁の生活を送っていた。
これからもコンタクトなんぞ使うつもりはなかったし、目にあんな異物を入れるのなんて信じられないと思い続けていた。
そう、昨日までは…。
仕事の関係でカラーコンタクトを使っている人たちがいて、
「つけてみなよ」
と言われたぼくは、二つ返事で
「いいっすね。いいっすね」
と言った。
好きな人にすすめられたらノーと言わないことを人生の美学にしているぼくは、面白おかしい、ふざけるのが上手なひげ面の先輩にそう言われて、断るわけがなかった。
ギャル要素の強めの、ピカピカのカラーコンタクト。
ワンデーの度なしのそれは、想像していたものと違ってふにゃふにゃで、入れても痛くなさそうだ。
つけ方を教えてもらって、鏡を見ながら挑戦したぼくだったけれど、全然入らなかった。
怖いとか、目に触れるのが痛いとかそういうのではなくて、ただひたすらに、どうあがいてもつけられなかった。
いろんな人のアドバイスをききながら頑張っていたけれどできず、ついに
「私が入れましょうか?」
と親切な人が現れて、入れてもらうことに。
目に指をつっこまれる。
なかなかにシュールなその光景を、固唾を飲んで見守る人々。
仕事中に何やってるのだろうかと思いながら、悪戦苦闘が続いた。
「あー惜しい」
「まつげ長いから難しい笑笑」
「もっとひらいて!」
「上向いて、上!」
「あー、惜しい」
結果、入りませんでした…。
その後、ぼくは別のオフィスに行って、1人でもう一度挑戦してみた。
やっぱり無理だ…。
もう一生、カラーコンタクトはおろか、コンタクトさえ入れることはできないんだ、と絶望しかけたその時。
「私できますよ」
と現れた子に、再度指をつっこまれる。
目に指をつっこまれるの、部分麻酔で手術をうけて、目だけ動かせる、みたいなときの気持ちってこんな感じなのかなあとか思いながら、なすがまま目を預けていた。
このまま「おりゃ!」って指ぐってやられたらもう二度とみんなの顔見られないんだよなあって思いながら、でも不思議と怖い気持ちは一切なかった。
怖くないの?ってきかれたけれど、不自然なくらい自然に指をつっこまれている。
ていうかやられている方はぼけっとしていればいいだけだからいいのだけれど、むしろ指つっこんでる方は怖くないのかな。
ぼくならそっちの方がよっぽど怖い。
急に自分の中の悪魔みたいなのが、ぐって押しちゃおうって思ったらどうしようって怖くなる。
だからぼくは無防備の人が怖い。
子どもとか、赤ちゃんを見ると不安になる。
そんな感じの、カラコンデビューでした。