君がうそなのは知ってるけれど

おめでとう、の声が周りからかけられ、ぼくらはほっと息をつく。

風は穏やかに吹いていて、潮の匂いがほのかにしていて、ここが海の近くであることを今さらながらに思い出した。

少し離れたところで、カメラの映像を何人もの人がチェックしている。

 

目の前の彼女は、細くて白い指を丁寧にひろげると、夕焼けにはまだ遠い太陽に向かって手をかざした。

こっちを見た彼女の目から、さっきと同じ、何色でもない、薄く透明な涙が一粒流れ落ちる。

「告白を受け入れてくれてよかったあ」

どこか大人びた、悲しげな瞳をしながら、ぼくに届かせるつもりの独り言。

ぼくはきちんと笑えているだろうか。

「告白してくれてありがとう。うれしかった。でも……、ぼくの方から、ちゃんと言いたかったなあ」

「ふふ」

薄い笑み。

彼女がどこを見ているのかわからなかった。

「もう一回さ、ちゃんとぼくの方から言っていい?」

目は合わない。大人たちは気を遣っているのか、カップル成立したばかりのぼくらのもとに近づこうとする人はいなかった。

「もういいよ、さっきそうやって言ってくれたじゃん」

「あれはカメラが回ってた。だから、ちゃんともう一度」

「えー。……恥ずかしい」

「言うよ」

「……」

どこか遠くを見ていた。

彼女はぼくを見ていない。ずっとずっと、この四日間、そうだった。

何度かアプローチされてきたけれど、彼女は最初から、ぼくなんかを見ていない。

いや、誰一人、見ていなかった。

「好きだよ」

「うん」

彼女が下唇を噛む。そっと、顔をあげると、上目遣いでぼくの目を見て、

「わたしも」

と言った。

 

ぼくは泣きたくなった。

波の音が、ざざぁーん、ざざぁーんと急にきこえだして、空が何色なのかを忘れてしまった。

強がりで、本当は意地っ張りなくせにそうじゃないフリして、どこかつまらなさそうにしていて、でもふと、年相応の女の子に戻って、笑う。

いつからか、本当に笑っている時と、偽物の笑ってる時とがわかるようになった。

本当の時の笑顔は、白いカーテンから差し込む太陽の光みたいな、そんな色。

もっと見たいなあと思う。

何も考えられなくなるくらい、ただただ好きだと思った。

 

彼女の気持ちは、僕(ここ)にはない。

その涙の持つ意味を、ぼくはまだ知らないでいる。

遠く遠く、波が連れ去った先に、彼女の本当の色を見つけられたらと願わずにはいられなかった。

 

それじゃあ、バス戻りましょー!

大人たちがぼくらに声をかける。

二人で顔をそっと見合わせると、作り物の幸せな笑顔で、

「はーい!」

「今行きます!」

と言った。

手と手が一瞬ふれあったけれど、この日それ以上近づくことは、二度となかった。