中目黒のコンビニで逆ナンされたからついてった話

中目黒にはたびたび飲みに行っているのだけれど、それはこうたろう(仮名)が住んでいたからだった。

 

ぼくの家が近いこともあって、よくこうたろうの家に転がり込んでは、朝まで飲んだり、2時間ぐらい飲んで解散したりというのをしていた。

その日も同じように中目黒のもつ焼きばんで飲んでいて、ぼくらは半分に切られたレモンを積み上げながら、舞茸の天ぷらをつまみに劣悪なアルコールを摂取していた。

 

席を立って、椅子に座ったお客さんの背中と壁がほとんどくっつきそうな狭い通路を通って、男女兼用のトイレへと行く。

扉がばんっ! と乱暴に開いて、真っ黒な服をきた派手目の若い女性が出てきた。

ずいぶんと酔っているようで、目の焦点はあってない。

ただ、意外と足取りはしっかりしていて、同じように黒い服を着た、もっと体の小さな女性の元へと戻っていく。

この人もばんのお酒にヤられたのだろう、明日はひどい二日酔いに違いない、と少々気の毒に思いながら、ぼくはトイレの中へと入った。

 

時刻は0時を回って、そんな女性がいたことをすっかり忘れきって、ぼくらは気持ちよく酔っ払って……、とは言えない、ちょっと物足りない状態だった。

駅の近くのコンビニを目の前にして、缶チューハイでも買おうか、と話していたぼくらは、店の入り口前に座る二人組の女性を見つける。

「ねぇ、あんたたち。どっかでみたことあるんだけど」

背の高い方の女性が、ぼくたちに話しかけてきた。

「飲み物おごりなさいよ」

よくみなくても、それが先ほどばんにいた女性たちだと分かった。

しかも声をかけてきたのはめちゃめちゃ酔っていた方。

彼女の酔いはいくぶんかマシになっているようだったけれど、コンビニの前で座り込むのは行儀がいいとは言えないし、シラフとは言いがたかった。

「そこのあんたたちだよ! いいから飲み物買って」

小柄な方の女性はほとんど酔っていないようで、酔っぱらった方を少しだけ困った顔で見ていた。

ただ、止めようとすることはなく、もとからそういう落ち着いた性格なのか、酔っ払いの扱いに慣れているのかはわからなかった。

「ばんにいましたよね?」

ぼくらの質問に、二人は首をかしげた。どうやら、じぶんたちの入ったお店の名前を覚えていないらしい。

「あんたたち何してるの?」

酔っている方が急にぼくらをキッと睨む。ぼくらは突っ立ったまま、特に何もしていなかった。

「飲んでたんですよ」

こうたろうが律儀に答えた。

「あのお店、ばんって言うと?」

小柄な女性が初めて口を開く。

「あや(仮名)わかんなーい」

酔っ払いは、あやという名前らしかった。

「仕事帰りですか?」

そこから他愛もない話をしていたぼくらだったが、こうたろうともう一人の女性が同じ福岡県出身ということで盛り上がったりと、不思議な会話を続けていた。

二人は仕事の先輩と後輩で、一緒に飲んだのは今日が初めてらしかった。コスメブランドで働く彼女らは、お店の規定で黒い服を着なければいけなくて、今日は着替えずにここまで来たとのことだ。

「のど渇いたあ!」

駄々をこねるあや。ぼくとこうたろうは顔を見合わせると、もう少しここで話して、お酒でも飲みながらゆっくりしようか、というアイコンタクをとった。

お酒をおごるのも面白そうだし、いいだろう、と思って、

「何飲む?」

とぼくはきいた。

「一緒に買いに行こ」

と言うとあやはぼくの腕をつかんで、店の中へと入る。

酔いが足りないと思っていたから、ちょうど良い。

ただ、飲まされるのは嫌だし、怖いなあ〜とか思っていた。

 

コンビニを出た彼女は2Lの水のペットボトルを手に持っている。

水かよ笑 という顔でこうたろうはぼくとあやのことを見た。

確かに、明らかに彼女は酒を飲むぞ! という雰囲気を出しているようにぼくらの目に映っていたし、何よりもぼくが酒を飲む気でいたのをこうたろうは知っていたから、拍子抜けしているみたいであった。

ぼくはというと、やっぱりちゃんと酔っていたのか、という思いと、水飲むのえらいなあという思いと、もっと早く水を買ってあげればよかった、という思いでいっぱいだった。

あと、派手な見た目からお酒飲ましてくる感じの人だと勝手に思い込んでごめんなさい。

柄は悪いけど、たぶんちゃんと常識ある人たちなのだろう。

実際、話してみると彼女たちは面白かった。

 

突然、あやが携帯を取り出して、電話を始める。

「え? うん。今から行く! 大丈夫、タクシー使うから。うんうん、えーっと、四人! 何、もう二人いるの? え、女の子?? 分かった、こっちはね、さっき会った男二人連れてく!」

「これからどっか行くの?」

少しだけイヤな予感がしながら、ぼくは一応きいた。

「一回しか行ったことないんだけど、男友達の家に今から」

「私なんてその男会ったこともないっちゃね」

博多弁の女の子は、困っているようにも、面白がっているようにも見える顔で笑った。

「行こー、タクシーで結構すぐだから。大丈夫、私が会ったことない女の子もすでに二人いるらしいから、そいつんち」

「え、ぼくらも? 行っていいの??」

「うん。もう言ってある。全然いいってー」

タクシーが目の前でとまる。

さあ、乗って、という彼女の言葉に、ぼくらはとてつもなくヤバいところに連れてかれるのではないか、という不安が一瞬よぎった。

「どういう状況……?」

ぽろっとこぼすこうたろうと目が合う。

ゴクリと、誰ともなくのどが鳴った。

 

前言撤回。この人たちに常識なんてなかった。

もう何が何だかわからないし、イヤな予感しかしない。

けれど残念なことに、ぼくらにも常識はなかった。

タクシーに乗り込む。

さよなら、中目黒。

この日ぼくらが得た教訓は、

「知らない人についていくと、ここではないどこかに連れていってくれる。ただし、タクシー代はこうたろうが負担する」

である。

 

※この物語はフィクションかもしれません、実在する団体、人物名、地名とは関係ない可能性が高いので、話半分に読んでください。また、迷惑行為は厳しく罰せられる可能性もあるし、犯罪に巻き込まれるかもしれないので絶対にマネしないようお願いします。