村上春樹はなぜ射精するのか?
ノルウェイの森を、たしか中学生の頃に読んだ。
正直話はあまり覚えていないし、感想も浮かばないのだけれど、一つ覚えていることがあるとすれば、それは主人公が何回も何回も射精をしていたことだ。
当時のぼくはなんとか読了したものの、品があるとはとうてい思えない性描写に、すごく嫌悪感を抱いた。
それ以降村上春樹作品を読むことはほとんどなく、彼の存在を思い出すことなく過ごしてきたのだけれど、大学の文芸部に「はるき」という名の女の子が入ってきたのをきっかけに、ぼくは再び村上春樹のことを思い出すことになる。
はるきは、村上春樹が好きでよく読んでいると言った。
女の子につけるにしては少し不思議な名前の気もして、きっと彼女に由来をきいたのだけれど、今となっては思い出せない。
彼女が村上春樹を好きな理由も、由来に関係あった気もするし、まったく関係ない気もする。
ただ、はるきという名前の部員は他にもいて、なんとなく紛らわしかったから、ぼくは彼女のことをハルと呼んでいた。
ハルは矛盾を抱えた複雑怪奇な文芸部において、どこか捉えどころがあるようなないような、不思議な人。
村上春樹が好きで、合宿にジェラピケのパジャマを持ってきて、女子部屋への侵入を試みるぼくに向かって「夜這いだ! 夜這いだ!」と面白そうに言うような、そんな人だった。
どんな流れだったかはとんと思い出せないけれど、ある日、ぼくとハルとこたくん(仮名)の3人でご飯を食べようという話になって、飲みにいったことがある。
お互いがそれほど仲良くないし、ハルもこたくんもぼくの先輩だった。
ぼくはその時から飲食店が好きだったから、すべてアレンジしたのを覚えている。
渋谷の駅で待ち合わせしたぼくらは、たしか最初にアティックルームというカフェダイニングにいった。
そこからムーンウォークに移動して、終電を逃して、夜が明けるまでその店で飲んでいた。
朝、始発が出ている時間になってもぼくらは帰らず、朝マックを食べることとなる。
さてはて、何を話していたのやら。
今では何も思い出せない。
彼女は愛の話が好きだったし、ぼくも愛についてよく考えていた時期だったから、きっとそんな話ばかりしていたのだろう。
もう今となってはハルとの連絡手段はなく、二度と会うことはないように思われた。
今、彼女との記憶を辿りながら、ぼくはとてつもない後悔をしている。
いつだって後悔はしないように生きてきたつもりだけれど、こればっかりは、過去に戻ってやり直せたらと思わずにはいられない。
もう一度ハルに会いたい。
会って、たしかめたいことがある。
ハルは村上春樹が好きで、その作品をたくさん読んでいると言っていた。
そんなハルなら、いやはるきなら、もしかしたらこの答えを知っているのかもしれない。
次会うことがあったら、これを絶対きこう。
村上春樹はなぜ射精するのか?