たいらさんはエモーションという話

たいらさん(仮名)は、見た目はギャルらしい。ぼくにはよくわからない。誰が言っていたのかもわからない。

 

営業終わり、彼女と一緒に朝まで飲んだ回数は、両手の指では足りない。

 

出会ってまだ一年も経っていないのが、とても不思議だ。最初のころはどんな感じだったっけなあと、考えるも、あまり思い出せない。

ただ、彼女は最初から、とても気を遣ってくれる人だった。

ぼくは0時近くとか、お店を締め終わるまでいつも働いていたのだけれど、たいらさんが来てからは、早く帰されるようになった。

 

たけうちさん、おつかれさまです、もう帰っていいですよ、と。

正直、ぼくは最後まできちんと締めてから帰りたかったし、一人で帰るのはさびしいのでイヤだったのだけれど、嫌われているのかなあと思って、言われるがまま帰っていた。

のちにたいらさんに、嫌われていると思ってた、と伝えたら、気を遣ってたに決まってる、と言われた。

 

いつ仲良くなったのかは、おぼえていない。

たぶん、営業終わりに帰っていたときに、終電前に一杯飲みます? ってたいらさんが言ってくれたんだと思う。

むちゃくちゃうれしかったのを、おぼえている。

 

そこから、そのまま朝まで飲むことが増えていって。

ぼくらは、仕事の熱い話をしたり、愛してやまないたくさんのスタッフの話をしたり、ぬまの(仮名)がいかにヤバイやつかを語り合ったりした。

 

たいらさんは、たくさん考えて、思うことが胸の中にはあるのだけれど、それをマイナスな言葉で表現しようとしない。

というか、ネガティブにきこえなくて、すごくすてきだなあと思う。

あと、しっかりと自負心があるのに、ほかの人のいいところを見つけて、言葉にするのが上手だ。

 

ステージでよさこいをやっているたいらさんをみたとき、キレキレの動きと、笑っている表情が輝いて見えて、すごくすごく、きれいだった。接客をするときのたいらさんの笑顔は、そのときに似ていて、すごくいいなあと魅入ってまう。

 

たいらさんは、二つの心を持っている、とぼくは思っている。

悔しくて、ムカついて、負けたくない、と思う心と、同時に、尊敬して、いいとこ見つかって、好きだなあと思う素直な心。

でもたぶん、後者の心しか表に出さない。

だからきっと、うそっぽい。

 

ぼくと似ているなあと思った。

強い感情、エモーションを持ちながら、上手にその感情と向き合って、生きようとしている。

 

その感情が、たまによくわからないことがある。

感情にまみれて、コントロールがきかなくなってしまいそうで、つらい。

 

働いている彼女を見るのがとても好きで、一緒に働くのが楽しくて、もうあと少ししかないのかと思うと、とてもさびしかった。

 

たいらさんがここにいてくれて、本当によかったと思う。

きっと、十年後も、アチい仕事の話をしながら、ぼくらは、好きだなあ、の心を大事にして生きていくんだろう。

彼女の働く姿も、エモーションも、めちゃめちゃ好きだなあと思いながら、今日もぼくは働く。