妄想海外旅行とオーストラリアと匂いの話

ぼくは今、オーストラリア行きの飛行機にのっている。

友人と海外旅行に行くのは、これが初めてだった。

 


ぼくらの旅は、人に会う旅。

お互いの友人と会って、一緒に過ごして、それがきっと、何よりも楽しい旅となる。

友だち関係が広がって、好きが増えていく。

その場所でしか会えないような友だちを見つけて、もっともっと、好きになっていくのは、幸せ以外の何ものでもない。

 


同じ人と、今まで一週間ともに過ごすと、決まってろくなことにならなかった。

面倒な部分もわがままな部分も、互いに見えてしまうから。

今までのぼくは、とても若かったのだと思う。

相手の心を考えきることができずに、イヤな気持ちになっていた。

もっと、想像力を働かせる。

最後まで面白がる。

それだけを目標にして、最高にすてきな旅にしたいなあ。

 

 

 

海外旅行には滅多と行かないのだけれど、もう心の中で、ぼくは何度も体験していた。

妄想海外旅行を知っているだろうか?

そう、海外旅行に行ったのだと、思い込ませて、妄想で楽しんでしまうというものだ。

この説明をすると、いろんな人に頭の心配をされるのだけれど、楽しいからぜひみんなやってほしい。

 


妄想海外旅行と言っても、ただ海外旅行をしているじぶんの妄想をして、バカンス気分に浸る……というわけではない。

たとえば歩いていて、いつもの通学通勤の道を見ても、ぼくらは何も感じない。

とくに気にもせず、いつも通り、考えることもなく歩いてしまう。

でも、本当は日々変わっていたり、細かいところを見ると面白い物があったりする。

 


だから、妄想をするのである。景色を見ながら、じぶんは遠い異国の地に来ていて、今はホテルを出てぷらぷらと散歩をしているのだと、考えてみる。

すると、集中して妄想力を高めていくと、本当に海外にいるような気分になっていく。

いつもの道を歩いているだけのはずなのに、あれ、あそこって壁の模様オシャレ、とか、こんなお花咲いてるんだ、とか、新鮮さを感じられる。

 


何やっているんだろう、じぶん、と思ったら終わりだ。

だから深く深く妄想の海にもぐって、ひたって、酔いきってしまう。

さすがにいつもの通り道でやるのはすぐ限界がくるので、ぼくはこれを、いつもとちょっと違うところへ出かけるときとか、ドライブをするときとかによくやる。

これが案外楽しい。どんな物事にも新鮮味を感じられて、もっと注意深く見てみようという癖がついて、今までだったら気がつかなかったような街の変化や変なところに、気づくようになった。

 


ただ、今ゴールドコーストの空港にいるのだけれど、妄想海外旅行をやりすぎたおかげで、オーストラリアに来たのだという実感を持てずにいる。

新鮮味を感じられなくて、海外でも、わざわざ妄想力を膨らませて妄想海外旅行をやらなければいけないのかと思うと、今までの妄想が本末転倒な気がしてくる。

 


そんな心配をしていたのだけれど、杞憂だった。

匂いをかいだら、一気に、日本ではないのだなあとぼくは感じた。

海外特有の、と言っていいのかは、あまり海外経験の多くないぼくにとって正しい表現なのかはわからない。

ただ、日本ではない匂い。

そしてその匂いを、ぼくは懐かしいと感じている。

そうそう、この匂い、海外って感じ、って感じ。

この匂いのおかげで、一気に現実海外旅行になった。

 


景色とか、味とか、音とか。

今の技術だったら、結構輸入できてしまう気がする。

もちろん、実際にみたりきいたり食べたりする方が深みがあって楽しいに決まっているのだけれど。

そうか、とぼくは気づく。

旅行って、匂いをかぎにいくことなのかもしれない。

だからぼくらは、乗り物を降りると深呼吸をする。

 


景色の匂い、味の匂い、音の匂い。

たくさんの人と、匂いと会う旅。

 


あともちろん、ワインも忘れてはいけない。