ねことギャップの話
ぼくは猫が大好きで、愛してやまない。
いくら名前を呼んでも無視するくせに、ご飯のときだけ甘えてくる。
こちらが忙しくパソコンをかたかたさせていると、わざわざ目の前を歩いて、キーボードの上に乗って邪魔をしてくる。
たまに帰ってくると、めちゃめちゃ甘えてくるか、怒って姿を現さないかのどちらか。
なに食わぬ顔でひざの上に乗ってきて、なでてやるとゴロゴロと甘える。
そのくせ構いすぎるとひっかくし、噛む。
はあ。
かわいすぎる。
やっぱり、ツンデレってすてきだなあと、思う。
ギャップにやられてしまうのかなあと思って。
あ、猫とギャップと言えば、と。
昔書いた本の紹介文を思い出した。
同じ人が書いたとは思えないほどのギャップに、とても怖くなる。
書題 黒猫
著者 エドガー・アラン・ポー
出版 青空文庫
タイトル 天の邪鬼
ぶきみだった。ろこつなグロテスク描写があるわけではなかった。ゆっくりと男から語られる短い一連のできごとだった。おれを薄ら寒いおもいにさせたのはひとえに、男がすでに絞首刑に処される直前の状態だったからだ。男は誰かを殺していた。動物が好きだという男。妻と結婚して、理解のある妻と一緒にたくさんの動物を飼っていたという男。中でも「黒猫」はたいそうきれいだったという…男。怒りっぽい男はついに自制がきかなくなって、黒猫の目を抉りとり、ずたずたにして木に吊す。人間誰もが持っている「天の邪鬼」の心のせいだと男はいう。おれは怖くなった。「誰もが持っている」のだとしたら、今となりに座っているおれの友人も持っていることになる。そしてぞっとした。おれはおれが天の邪鬼であることを知っていることを、今知った。人と違うことをしたいとおもうことは、何度もあった。おやにいわれたことを、何度も否定した。右だといわれれば左と答えることは、人生の中で少なくはなかった。そして天の邪鬼だからこそ、おれは自分の心の奥底にすみついている天の邪鬼を肯定していなかった。
おまえにも身に覚えがあるはずだ。
誰もが天の邪鬼を心に飼っていることは、正しいと思った。気持ち悪い。吐き気がする。数年後。男は黒猫によく似た猫をみつけた。胸に白い模様があること以外、とてもよく黒猫ににていた。男は猫を飼いはじめる。ゆっくりと浮かび上がっていく胸の模様。男はいったいなにをして、捕まったのか。猫はなんのために、現れたのか。となりで息をとめたように眠る友人の横で、俺は赤くなったペンをそっと机においた。
書題 世界から猫が消えたなら
著者 川村元気
出版 小学館文庫
タイトル 消える世界の真ん中に猫
ぼくがこの本を見て最初に思ったのは、猫が消えた世界が描かれているのかなぁ、ということでした。きっと悲しい世界なのだろうなぁ。ネコ科特有の冷たい瞳に、もふもふな触り心地。時々すごい甘えてくるのに、こちらからちょっかいをだすとメンドクサそうにどこかいってしまう気分屋。イヌは男で、ネコは女ときいたことがあります。ぼくはルパン三世をみながらまさにそのとおりだと思いました。そんなネコが世界から消える。ぼくには想像もつきませんでした。だからこそこの本を読みたいと思いました。とつぜん主人公の前に現れたアロハシャツの悪魔。主人公は明日死ぬ。悪魔はおまえの寿命を一日のばすかわりに、この世界から一つモノを消す。消えるのは携帯や時計。ぼくらの身近なモノばかり。主人公の一日の代償となったモノたち。彼はその大切な一日の中で、消えたモノがどんな役割をもち、どのような影響を与えているかを知りました。モノは悪魔によって毎日選ばれ、主人公が消したくないと言えば、かわりに主人公が消えるのです。消える。消える。消える世界の中で、主人公は大切ななにかを手に入れます。彼とともに暮らす一匹のネコは彼の親しき友人でした。
世界からネコが消えたなら。
彼は最後にどんな選択をしたのでしょうか。彼の最期は、悔いのないものになったのでしょうか。失ってはじめてわかることがある。さて、あなたはあなたの人生の終末の時。何を消しますか? 何を、知るのでしょうか。