ようすけはヒトニンゲンというはなし

 


ワシントン出身の彼とは、いつも飲みながらまじめな話をする。
2つ上の兄と同い年の彼は、常に人生の最高地点を生き続けることに尽力していて、尊敬できる先輩で、親友で、飲み友達。
“わたしの友達はいいひとばかりで、わたしは本当に幸せなんだ。”
もちろん、あなたも含めて。と付け足すわたしに、彼は笑いながら、

“You are a people person. ”

と言った。
はじめて聞く言葉を半分ばかにしながら、ヒトニンゲン?と返した。
彼によると、ヒトニンゲンとは、人が好きだったり、人に好かれていたり、とにかく人と過ごす時間を楽しめる人、という意味らしかった。
うれしかったけど、彼のヒトニンゲンレベルはわたしのそれをはるかに越していると思った。

ようすけが風の又三郎(仮名)と知り合いだと知ったときは、世間の狭さに驚いた。
ようすけが、テストの日に3人で飲みを企画してくれたのだけど、飲みの前にふたりで勉強することになった。
わたしが学校のラウンジでようすけを見つけると、
“今日めっちゃ楽しみにしてた!やまはと飲めると思ったから、頑張って勉強できた!” と言った。
お世辞が下手なひとだなあと思った。

ようすけのことを誰彼構わず紹介したくなるのは、わたしだけじゃないはずだ。
ようすけは、常にみんなのことを見ていて、誰も傷つけないように、丁寧にすべてを選んでいる。
ようすけに誰かを紹介しても、誰も傷つかないのを知ってる。
そんなに丁寧でいて、疲れないかな、大変じゃないかな、とはじめは思ったけど、相手に合わせて丁寧さを加減できるのも、知ってる。
それでももちろん、丁寧であることに変わりはないけど。

ようすけと又三郎が、わたしのバイト先に来てくれたことがあった。
わたしが間違えてレモンを入れてしまったウーロンハイを飲んで、
“わ!不思議な味ー!“
と言った。
結局全部飲みほしてくれて、もっと適当でいいのに、と思った。

ようすけを見ていて、やさしくあることと、同調することは、まったく違うと実感した。
ようすけはやさしい。でも、意見が合わないことも多い。
わたしのよくわからない悩みを聞いて、否定こそしないものの、
“でもさあ”
と言って、自分の見解を述べる。
新しい呼吸穴をくれる。
窒息死しないで済む。

ようすけとはじめて飲みに行ってから、ほんの3か月ほどしか経っていないのが信じられないくらい、急に距離が縮まった。
いっしょに時間を過ごした期間は短いけど、少しずつようすけが見えてきたと思っている。

今ならわかる。
あの日、お世辞じゃなく、本当に楽しみだったんだろう。
レモンのウーロンハイは、おいしくなかったけど、友達が出してくれたお酒だから、うれしかったんだろう。

あ、ヒトニンゲン。

プラネタリウムで寝落ちしてるようすけを見て、彼の言葉を思い出した。

彼は今、ケンタッキー州にいる。取引先の人に気に入られて、長期出張らしい。
2月に彼が帰ってきたら、ようすけを紹介しよう。
ヒトニンゲン同士、きっとすぐ好きになると思う。

とりあえず、次にようすけに会ったら、物理的な膝かっくんを仕掛けようと思う。