結婚してくれてありがとうという話
高校の友だち二人、たいざん(仮名)とひとみ(仮名)が、結婚をした。
彼らとは高校のころから遊んでいたけれど、卒業してからの方が一緒にいることが多くなったように感じる。
二人が付き合うようになると、ぼくはより彼らと会うことが増えた。
なおや(仮名)も含めて、四人で飲んで潰れたり、うちの姉や母親とその友だちも一緒に、ワイン会をしてめちゃめちゃワインを飲んだこともあった。
二人が結婚をする、という話をきいたとき、ぼくはまったく驚かなかったように思う。
たいざんはひとみさんにぞっこんで、とても真面目に愛していた。ぼくらが誘惑をチラつかせても、見るそぶりすらなかった。
たいざんは、帰属意識が高いようにぼくは思っている。じぶんの所属する集団や場所に対して、彼は誇りと、自尊心と、強い愛を持っている。
学校も、部活も、会社も、家族も。彼は、愛しきっている。
たまに、たいざんのことをうらやましいと感じることがある。
だって、ぼくはじぶんのことが、一番信じられないから。
ぼくは、不変なんて信じていなくて、きっと気持ちは変わってしまって、断言できるものなんてこの世に一つもないと思っている。
きっと東京で育ってきたからだろう。
東京の街並みはすぐに変わってしまって、移ろって、ぼくらはエモさを感じられないでいる。郷愁とか、ノスタルジーとか呼ぶものが、年月が経てば経つほど、逆に薄れていってしまう街。
けれど、変わることを楽しめるのもまた、東京なのだと、今は思う。
気持ちは変わってしまうかもしれない
けれど、その気持ちが、変わらないように、強く繋ぎとめようとするのもまた、とてもすてきなのかもしれない。
たいざんは、変わらずにひとみさんと一緒にいるのだろうなあという気がする。
みていて、強く思った。とても幸せになる二人だろうなあ、と。
どこかひょうひょうとしているひとみさんは、きっと努力の人で、でもそれを他人には見せない。
だからたいざんが、いいガス抜きというか、安心して眠れる、羽毛ぶとんみたいな存在でいてくれたらなあと、ぼくは勝手に思う。
そんな思い入れしかない二人が結婚をする。
ぼくは絶対に、どんな予定があったとしても、必ず結婚式に行こうと思った。
ただ、たいざんにきいたら、式は親族だけでささやかなものを挙げるらしかった。
ぼくが参加するためには、たいざんの弟と結婚する以外、ほかに道はない。
もしくは、働く側として、給仕をやるか。
ぼくはまだ、結婚式に行くつもりだ。
高校の人たちは結婚式に行けないということで、せっかく同じ高校の友だちが結婚したのだから、ぼくらで結婚祝いのパーティをしようということになった。
あやこさん(仮名)がぼくに声をかけてくれて、二人で幹事をする。
いろいろあって、準備も決してラクではなかった。
レンタルスペースを借りて、ホームパーティみたいにしようということになった。そこでお祝いのムービーを流して、プレゼントを渡す。
食べ物も飲み物もじぶんたちで用意をしなければいけなくて(ひとみさんがめっちゃ料理作ってきてくれて、神さまかと思った。しかも全部めちゃめちゃおいしかった)、下見もできなかったからどうなることかと思った。高校の集まりといっても、十四人くらいいる中で、みんながみんな仲がいいわけではないし、ぼくもしゃべったことのない人が何人かいた。不安は尽きない。この規模のイベントをしたことなんてないし。
結果は、一応無事に終わった。
たぶん、やり直せばもっともっとよくなるのかもしれない。準備とか、段取りとか、完璧とはほど遠い。
けれど、これでよかったんじゃないかなあとぼくは思っている。
たいざんとひとみさんが笑っていて、楽しそうに話をしていて。
周りの人たちも、みんな笑顔でしゃべっていた。
その場にいたみんなが、とても楽しそうだった。
ぼくはそれをみながら、泣きそうになる。すごく幸せで、あったかい空間で、この瞬間の空気を、ずっと忘れずにとっておきたいと思った。
一緒にいろいろ考えながら準備したあやこさん、ありがとう。
当日手伝ってくれて、みんなありがとう。
たいざんとひとみさん、ご結婚おめでとう。
二人に、とてもありがとうを伝えたい。
二人がいたからできた会だったし、たいざんとひとみさんだったからこそ、みんなが集まって、いろんな人がメッセージ動画をとってくれて、あの日ができたのだと思う。
きっと間違いなくらい、ぼくは幸せを感じた。
幸せは今も、残り続けている。