推薦状を10枚集める就活の話

就活は一社だけやろう、と考えていた時期があって、とあるアニメの会社を受けたことがある。

社長との最終面接までこぎつけたのだけれど、残念なことにその会社に採用されることはなかった。

 

一次面接の前の書類選考ではいくつか選考方式を選べて、エンタメ関係の会社ということもあって面白いものがたくさんあった。

その中でもぼくが一目見て気に入ったのが、推薦状選考で、簡単に言ってしまえばどんな人からでもいいから推薦状を10枚もらってくるというもの。

しかもこちらの推薦状選考は、「選考」とは名ばかりで、10枚以上推薦状を集めれば自動的に書類はパスし、一次面接に進めるというものだった。

 

条件は「推薦状であること」と「家族以外の人からもらうこと」の2つだけで、形式も何もかもが自由だ。

推薦状ってそもそもなんやねん、という感じだけれど、これはやるしかない、とも思った。

就活という大義名分のもと、じぶんの好きな人たちに「ぼくを褒めちぎってくれ」と頼むのは何とも興奮するし、ぼくが書類選考で落ちるわけがないけれど自動的に面接に進めるに越したことはないので、正直メリットしかないなあと思っていた。

 

そんなこんなでまず考えたのが、どの10人に頼むか。

面白い文章を書いてくれるかつ、頼めば95%の確率でやってくれそうな人を全員リストにしたあと、その中でも同じようなコミュニティ、同じようなことを言いそうな人は除外していった。

また、年代や性別のバランスを見ながら、同い年ばかりにならないよう、70%くらいの確率で、頼み込めばギリギリやってくれそうな先輩、後輩、上司、先生など、いろんな属性の人を頭に思い浮かべ、最終的に14人がリストにのった。

 

阿吽の呼吸で会話できるような、気のおけない友人であれば実際に会って、ちょっと推薦状書いてくれよ! とか言えばやってくれるだろうけれど、これだけの属性、人数にそれぞれ推薦状を書いてもらうのは少し骨が折れるなあと思った。

ぼくを褒めちぎる文章を書いてくれ、だなんて多くの人間にとって負荷が高い。

めんどくさいし、断るのもだるいし、どうしようって感じ。

 

人に物事を頼む時は、頼む前にすでに、やってくれるかどうかが決まっているとぼくは思っている。

これやってくれない?と言う時、極論、相手に疑問点や質問が一つでもあってはいけない。

なおかつ、詳細に条件や背景を記しすぎても、やっぱりだるい。

 

このバランスに気をつけながら、どんなフォーマットで何を書いてほしいのか、その背景と方向性について簡単なキーワードで明示して、会える人には実際に会いに行き、すぐに会えない人には電話をして、「なんでお前におれの推薦状を書いてほしいのか」をぼくの言葉で丁寧に伝えた。

 

集める推薦状は10人でよかったのに14人をリストにしていたのは、断る人、なんだかんだ書くのが面倒で書かない人が確実に3人はいるだろうと踏んだからだった。

 

ただ、ぼくの人徳のおかげか、または良い人間しか周りにいないためか(類は友を呼ぶ)、14人中13人の人が快く推薦状を書いてくれた。

しかも、ぜんぶめちゃめちゃ面白かった。うまい具合に、いろんな方向性からぼくという人間を切り取っていて、文体も滑稽なくらいバラバラで、読んでいて飽きさせることはないだろう、人事も楽しんでくれるに違いないと思った。

2次面接の面接官たちも推薦状を読んでくれたみたいで、なかなかに可笑しかったようで、面白がって読んでくれたのは実に気持ちが良かった。

 

どの推薦状もかけがえのないもので、大事に大事に保管して宝物になっている。

その中でも、ダントツでエモい文章がある。

この友人と仲良くなるまでの道のりはとても長かったので、思い入れの特に強い文章だ。

晒しているのがバレたらたぶん、しばらく口をきいてくれないと思うけれど、そういう人なのだけれど、やっぱりエモいから見せてしまえ。

 

推薦状  部活の幹部役員の仲間兼友人

 


武内さんとは、一年生の時、部活を通した読書会で知り合いました。

読書会は他大学の方との交流を図るもので、武内さんにとって私を含め全員が初対面だったと思います。しかし、武内さんはそのなかで臆することなく様々な人に話しかけ、あっという間に人の輪をつくってしまいました。読書会のなかではグループごとの発表もあり、私はその代表に選ばれ、心許なく感じていたのですが、武内さんはその手伝いをしてくれました。後から仲良くなって気が付いたのですが、武内さんは社交的なばかりでなく、常に周りの誰かが心細くならないように注意深く見ているなと感じています。

読書会で少し会話をしたものの、最初の武内さんの印象はあまり良くありませんでした。みんなと仲良く話すぶん私には武内さんが少し軽薄そうに見え、苦手なタイプだなと思っていたからです。そこで、部内の部誌で武内さんが書いた小説を見てますます不思議な人だという印象を受けました。武内さんの書く文章はメッセージ性が強く、人と人との間の何かを常に示そうとしていました。そして、武内さんの伝えたいこと、彼の良さを知っていくうちに、彼がただ単にフレンドリーなだけの人間ではないと知りました。柔軟性を持ちつつも、見えない部分にアツく粘り強い何かを持っている人なんだなと今では思っています。

武内さんの魅力は、面倒なことでも自ら進んでする責任感と、どんな仕事も期待以上にこなすバイタリティの高さです。

武内さんは部活のなかの仕事として、部誌発行における編集長の仕事と部員の交流を図る納会の幹部の仕事を掛け持ちしていました。それらの仕事を最後まで完璧にやりきるだけではなく、武内さんはもっと多くのことに貢献してくれました。武内さんは学年性別問わず様々な人と交流を深め、部内の雰囲気をとても暖かなものにしてくれました。視野が広く、感情的な問題にも理解を示してくれるので、部内のみんなの相談役でもありました。いつでも朗らかで、どんな提案も嫌な顔ひとつせず積極的に参加してくれるので、武内さんがいると部内はとても安心感のある雰囲気になります。

武内さんとはいろいろな話をするうえで、相談事などもたくさんしましたが、その精神性の高さにいつも驚かされます。″好き″や″悲しみ″など、人が当たり前に使っている単語をそのまま理解するのではなく、まずそれを疑い、あらゆるものの本質を見ようとします。武内さんと話をするなかで、自分が今までどれだけ表面的に生きてきたかを実感させられました。哲学的な思考を持っているにも関わらず、内に籠るのではなく、社交的な武内さんを私は尊敬しています。彼ならどんな場所でもすぐに馴染み、周りを明るく照らすことができると信じています。