終わる世界に君はいるか
高校の頃に読んで、結構好きだった小説の紹介文。
授業中によく、ポメラというワープロマシンみたいなやつをパチパチ言わせながらずっと本の紹介文を書いては、友達に売りつけてたなあ。
書題 終わる世界のアルバム
作者 杉井 光
出版社 メディアワークス文庫
人が死ねば、その人が存在したあらゆる痕跡が消える。
その人に関する記憶は消え、世界は都合の良い風に書き換えられた。
もはや人は死なない。
誰も覚えていないから。
葬式はなくなり、代わりに不自然なほど、空き家が増えた。
ブラスバンド部で演奏しようとしていた曲目は、人数が合わなくてできなくなった。
人が死ぬのは悲しい。だから神様ってやつが、人間が胸を痛まないよう取り計らってくれたのかもしれない。
偽りの優しさだった。
生きている意味とは何なのだろうか。
何かを残すことも、何かを伝えることも、何かを作ることも、何かを見つけることも、何かを楽しむことも、何かを哀れむことも。
意味はなくなる。
すべて消えるのだから。
砂浜に書いた文字のように、押しては引く波が欠片も残さず消してしまう。
曲から消えるギターの音。
ボーカルの声。
徐々に空虚を覚える、心。
すべてが消えてしまうなら、生きている意味なんてないのではないだろうか。
写真ですらも、消えるはずだったーーー。
一人だけ、消えた人の記憶を保持できる少年。
彼はアルバムを作っていく。
他人と距離をおくことで、人が消えても、平静でいられるようになった。
誰も知らない世界で、自分だけが知っているという地獄に、耐えることができる。
はずだった。
悲しい。
怖い。
苦しい。
終わる世界。
アルバム。
緩やかに終わり続ける世界で、少年がみたものとは。
誰も知らない。
少年もいずれは消える。
誰も、彼を思い出せなくなる。
みんな、すべてを忘れる。きっと。