イケメンは誠実ではいられない話
ぼくには四つ上の兄と二つ上の姉がいる。
親戚の人の家に行ったとき、まず長男である兄が迎え入れられて、
「あ、お兄ちゃん、かっこいいねえ!入って入って」
と言われた。
姉が次に、
「あぁ、お姉ちゃん!かわいいねえ〜〜」
と言われる。
最後にぼくが入るのだけれど、親戚の方は一瞬間をおいて、
「…………。弟くん、優しいね!!」
と言ってくれるくらい、ぼくはイケメンである。しかも一瞬で見抜かれるほど優しさがにじみ出ている。
これはぼくの鉄板の持ちネタだ。
バイト先に、ぼくとイキリ(意気がること)においてトップを争うひゅーま(仮名)がいるのだけれど、そいつは風貌のみならず、言動や行動もかっこいい。漢って、感じで、抱かれたい男ナンバーワンである(ぼく調べ。ちなみにアンケートは一切とっていない)。
彼の話をきいて思ったのだけれど、イケメンって、周りの人が誠実でいさせてくれないんだろうなと。
例えるならば、常にめちゃめちゃ美味しい食べ物が目の前においてある感じ。それがおっきなパフェなのか、お寿司なのか、カニなのかはわからない。ただ、すごく魅力的なのである。
目の前にずぅっとおいてあるそれは、どけることができない。視界からいくら外してもすぐに眼前にすっと現れて、目をつぶっても匂いがする。
満腹なら何も問題はない。美味しそうだな、と思うけれど、食べようとは思わない。
ただ、問題なのは空腹のとき。
お腹がすいてたまらないとき、目の前にある「それ」は、むちゃくちゃ誘惑してくる。食べようかな、いやでもだめだ、食べちゃだめだ、食べちゃだめだ。
すごくがんばって、努力して、めちゃくちゃえらくて、その誘惑を退ける人はいるのだけれど、その努力が評価されることってあまりない気がする。
イケメンは、そんな感じ。
いくら誠実でいようとしても、周りが誠実でいさせてくれないし、誘惑に打ち勝つ努力も評価されることはないから、次第に誠実でいようとすることをやめてしまうのではないかと思った。
ひゅーまも大変だなあと思う。彼のことを、「悪いやつだ」といじることも多いのだけれど、本音のところで、あいつを悪い人間だと思ったことは一度もない。彼を悪くさせているのは、他ならない周りの人たちだ。
彼は何かを強要しているわけでも傷つけようとしているわけでもない。
勝手にあっちからやってきて、勝手にあっちが傷ついているのである。
相手の要望通りに叶えていって、度が過ぎて「無理だ」と言った瞬間、彼は悪者になる。
イケメンの持つ性質を理解しないまま、その上辺をみてわかった気になって今まで楽しんできたにも関わらず、いざその性質がじぶんにデメリットになると、最低だと非難をする。
実際、ほかのイケメンがどうなのかは知らない。本当にひどい人もいるのかもしれないし、傷ついた人に対してあなたが間違っていますよとは到底言えない。
けれど、ひゅーまに関して言えば、彼は悪人ではない。
女の子が傷ついている時点で、どちらが悪いかは一目瞭然である。
ひゅーまは、極悪人だ。