明治神宮はエモくない話
ニュージーランドに住んでいるぼくの友だちが、大学の友だちを一人連れて日本に旅行に来ていた。
夕方に成田空港に着いたものだから、ぼくは荷物が入るように8人乗りの車を借りて、2時間くらいかけて空港に迎えにいった。ぼくのマンションの下にあるゲストルームに泊まって、1日観光案内もした。
正直、めちゃめちゃ楽しかった。
ただ、さすがに一人で空港に迎えに行くのは、シンプルに面白くない(単純でつまらない)なあと思った。
せっかくなら、空港に行く道中も楽しめれば、よりよい。
やまは(仮名)とあおた(仮名)に頼んだら(二人とも英語を話せる)、空港に迎えに行くことを快諾してくれて、友だちに紹介するのも楽しみにしていた。けれど、二人とも理由があって来れなくなってしまった。
まあまたいつか会えるだろう。
しかたないので一人で行こうと思っていたのだけれど、本当に偶然、同じ英米文学科の友だち二人から電話がかかってきて、「今から渋谷で遊ばない?」と言われた。
仲はいいけれど、たまにしか遊ばない二人だったし、最近はあまり会っていなかったにも関わらず、車を借りたちょうどそのタイミングで連絡が来たことに、ぼくは驚いた。
これが運命か、
と思ってだいぶ興奮しながら、
「逆に今から成田空港行かない?」
と言った。
「渋谷まで迎えに行くよ!」
とぼくは伝えると、電話をきって、すぐさま車のエンジンをかけた。
じぶんの大学の友だちに会うのも、彼らをニュージーランドの友だちに会わせるのも、とても楽しみだった。
道中はお互いの近況を話したり、音楽を流したり、おかげでどしゃ降りの高速道路で、無事眠らずに、事故を起こさずにすんだ。
ありがとう、こうすけ(仮名)とけいすけ(仮名)。すけばかりが集まってしまった。
家に着いて車を返したあと、ニュージーランドの彼らの友だちが三人日本にいて、ぼくとこうすけも一緒に、合計7人で飲むことになった。
だいたい誰も彼も、半分の人たちを知らなかったのだけれど、そんな混沌した会だったのだけれど、とてもとても楽しかった。
こうすけもすごい気を遣えるやつで、すごくすごく助かった。いいヤツ過ぎてビビる。
次の日に、ぼくとニュージーランドから来た二人で、東京観光をした。
明治神宮に行きたいと、彼らは言う。
ぼくが明治神宮に行ったのは、観光の付き添いと、大学の授業で外国人にインタビューしたときの二回だけだったのだけれど、三回目も、たいして特別にはならなかった。
おみくじをしたりと、明治神宮を一通り見たあと、一人が、
''Is this all?''
これでぜんぶ? とか、これで終わり?
とかそういう意味で、たぶん他意はなかったのだろうけれど、なんだかそうだよなあと曖昧(あいまい)な気持ちになった。
きっとぼくらの感性が合っていないだけなのだろう。
ぼくは明治神宮に、何も感じなかった。
なぜなのか、考えてみる。
旅行先で、ぼくはよくお寺や神社に行く。
そんなとき、ぼくは有名で大きな場所に、エモさを感じられないでいる。
小さくて、人のいないところ。どこか静かで、自然の中にあるような、緑と調和をしているような、そんな空間を、ぼくは日本らしいと感じる。
そこに、知らないはずの懐かしさみたいなのを感じて、目を閉じる。
すぅーっと深呼吸をして、匂いを感じて。
木々の間から差し込む日の光をまぶたの裏に感じて、ちょっとだけ、泣きそうになる。
その優しさに、心がとても落ちついて、たまらない。