PCR検査を受けた話

 

微熱がずっと続いていた。

 

地元の小さな駅で、2人以外入るのことのできない秘密めいたレストランで朝までお酒を飲んだ後、お昼頃に起きたぼくは二日酔いなことに気づく。

 

熱を測ると、37.5度。

 

昨日は36.8度だったな、と思ってから、少しだけ、寒気がした。

思った以上の熱の高さにびっくりしたのか、二日酔いがひどいのか、ぼくには見当がつかない。

 

2人だから大丈夫。

他に人がいないから大丈夫。

そう思って外出してお酒を飲んだのが間違いだったのかもしれない。

 

そこから4日間、朝は平熱だったのだけれど、夕方前になると37.5度まで熱が上がった。

4日目も、朝平熱であることを確認して出社した。

そうしたらお昼ごろに電話が来て、どうやらちょうど二週間前に仕事で接触した人が、陽性で入院していたらしいことがわかる。

 

接触したと言っても、同じ空間にいただけで、いわゆる濃厚接触には当てはまらないらしかったのだけれど、そのときぼくは心臓がバクバクした。

 

どうしよう、と思って、すぐに上司に報告して家に帰ることになった。

その後、オンライン診療なるものがあって、自宅でもお医者さんに診療してもらえることを知って、実際に受けることに。

極論、沖縄に住んでいても北海道のお医者さんに診療してもらえるのがオンライン診療なのだけれど、ぼくは近くのお医者さんでオンライン診療を受けられるところを探した。

オンラインではレントゲンを撮ることや、細かな処置ができず、もし診察の結果より詳しい検査が必要だとなったときに遠くのお医者さんだと対応できないからだ。処方箋はファックスなどで近くの薬局に送ってくれるらしいのだけれど。

 

診察はすごく丁寧でわかりやすく、的確で、次の日には実際にお医者さんのところへ行ってレントゲンを撮って、PCR検査を受けることとなった。

ここらへんは時期とか市区町村、紹介をしてくれる病院によっても対応が色々違うのだろうけれど、ぼくの場合はとてもスピーディーに、PCR検査を受ける運びとなった。

もちろんその日すぐに、とはいかなかったけれど。

 

注意書きの紙を看護師さまに渡される。

絶対にしてはいけないことや、迷った時は何色の服の人に声をかければいいのかなどが記載されたその紙は、検査を受ける際に必要な大事な紙だった。

ぼくはそれを握りしめながら、母親のバイクの後ろに乗って、検査会場までいくこととなる。

公共の交通機関は使ってはいけなかった。

タクシーも色々な制限があるらしい。

 

会場についても、それらしさはなかった。

地図を見ながらぼくは歩いて、

「検査を受けに来ました」

と伝えると、サッと周りの人たちが距離をとる。

アルコール消毒を自身で手につけて、歩く。

室内。受付には、透明な壁が貼られたテーブル越しに、2人の男性が立って、

「身分証と紙を見せてください」

と言った。

 

ぼくは言われるがまま、4メートルほど離れた位置から紙と免許証を見せる。

きっと何も見えないだろうな、あれ、もしかして双眼鏡で見てくるのかな、と考えていたら、

「遠いです」

と言われて、難しいなあと思った。

 

紙を手渡すと、言われる。

「床に書いてある1番の番号のところに立ってください」

言葉通り、5歩ほど左に歩いて、1番と書かれた床の上で立って待つ。

 

5秒もしないで、

「それでは、お進みください」

とマイクで音を拡大させて言われる。

 

床に描かれた線に沿って15歩ほど歩くと、パイプ椅子が5脚並んでいた。

防護服に身を包んだ男女の2人とぼく以外、誰もいない。

天井の高いその空間では、オレンジ色のおっきな扇風機がブンブンと回っていたけれど、ねっとりとした静けさがあった。

濃い、緊張感みたいなのを感じた。

 

防護服を着た40代くらいの男性に、

「それでは座ってください」

と言われる。

その後、

「間違いのないように確認させていただきます、    さんでよろしいでしょうか?」

と高らかに言われて、

「はい、間違い無いです」

と言った。

男性はずん、とぼくに近づくと、

「マスクから鼻だけを出してください」

と言う。

 

鼻に15cmくらいの長い棒を突っ込まれて、くしゃみとも咳ともつかない、鼻ムズムズがぼくを襲う。

プールで水が鼻に入った時みたいな不快感。

 

その棒が抜かれると、男性はぼくから離れて、試験管のようなところに棒を入れる。

彼がゴム手袋を外すと、もう一つゴム手袋をしていた。

何重にもなっていて、その一つでしかないのだろう。

アルコールとみられる液体で手を消毒すると、彼は

「それでは終わりです。案内に従ってお帰りください」

と言って、

ぼくは

「ありがとうございました」

と頭を下げた。

 

ありがとうございました。

関わるすべての人に、ありがとうございました。

 

広い検査場には、検査を受けるのはぼく1人。

 

何で誰もいないのだろう、と思いながら帰路についた。

 

2日後、見知らぬ携帯番号から電話がかかってきて、

「     さんの携帯電話でよろしいですか? 検査結果をお伝えします、陰性です」

「はい、え、陰性? いんせい? 本当に? もっかい言ってもらっていいですか?」

「陰性です」

「あ、なるほど、ありがとうございます。ありがとうございました。お電話ありがとうございます」

 

よかった。

多くの人にご心配と、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

 

でも陰性なら、この熱は何??

と思いながら、ゆっくりと寝ました。