みんな時刻に落ちろというはなし

電話は嫌いだなぁ。


シャワーを浴びながら、髪に染み付いた肉の油の匂いがなかなか取れなくて、鬱陶しく感じる。
だいすきなアメリカのドラマに出てくるダイナーの店主は、”dead meat”と言いながらハンバーガーをサーブする。


電話が鳴って、外に出ると、リンゴスターみたいな髪の人が立っていた。
家の近くのセブンイレブンは、檸檬堂のレモンサワーが1種類しか置いてなかった。これから長くなりそうな夜のお供に、足りないよりいいかぁ、と2缶買う。

 

何処に行こうか。
そんなの決めずに車に乗り込むから、ドライブってスリリングで好きだ。


だんだんと知らない景色になっていく。
暗めのドリームポップを選曲したことを、少し後悔する。この夜にはぴったりなのだけど、今のわたしには大き過ぎて、飲み込めない。


バイト先の隣の飲み屋の店主は、勝手にリンゴサワーとおでんを出してくれる。なんで今日はビートルズなの、と聞くと、うちはいつもビートルズしか流してないだろ。と、ヴィヴィアンのジッポでタバコに火をつけた。

ここは居心地が良くて、いつも長居してしまって、飲み過ぎる。
でもこの日は、ほろ酔いでもなかったら、ドライブに行こうと夜の1時に言われたところで、絶対に承諾しなかっただろう。



今年、まだおでん食べてないなぁ。


となりのリンゴスターが呟く。
なんの話をしていたんだっけ。おでんの前。ああ、宗教だ。
彼がアメリカの宗教ドラマの話をしている最中、わたしは流れる景色をぼんやり眺めていた。
東京は明るいなぁ。
衛星写真に映り込むほど、派手に無駄遣いされる電力。

みんなが怖がるかいじゅうも、地球の明かりだけは大き過ぎて食べきれない。

NHKで自分と同じくらいの歳の子たちが歌うのを聞いて、わたしだけ泣いていたのを思い出した。

見てみなよ、面白かったよ。


会話の終わりらしいセンテンスにはっとして、適当に相槌を打った。
やばい、半分くらい聞いてなかった。いや、半分も聞いてないか。。。


わたしだけお酒を飲んでいるのはフェアじゃないけど、彼はそんなこと気にしないだろう。大体最初から、わたしはお酒飲むけど、それでいいなら。ってディールだった。


途中のセブンでおでんを買った。厚揚げの美味しさをわかってくれる人に、初めて会ったかもしれない。
でもやっぱり、勝手に出てくるおでんの厚揚げが、やけどするほど熱すぎて1番おいしい。


眠くなってきたなぁ。
そういえばあの人は、助手席で寝ているわたしを見るのがすきだった。


こんな幸せないと思う。


本当に幸せそうに言っていた。わたしは運転できないけど、彼の幸せを想像して、少し分けてもらった。


目の前の信号の赤色が滲み出す。光は細くなって、どんどん伸びる。
街灯の明かりも、ホテルの看板も、全部違う色なのに、同じように伸びる。
平行な光は交わらないまま、どこまで伸びるのだろう。


目を開けると、見慣れた道に車は止まっていた。
リンゴスターはたぶん、ちっとも怒ってなかったけど、それでもやっぱり謝って、いつもの部屋に戻った。


換気扇の下で、死にかけていたライターが、ついに息を引き取った。
わたしもヴィヴィアンのジッポが欲しいなぁ。