さよならお兄ちゃん

任天堂DSの「おいでよ どうぶつの森」を買った日のことを、ぼくは今でも覚えている。

二つ上の姉が最初に買ったどうぶつの森を横で見てるうちに、とてつもなくやりたくなったぼくは二人目の住人として入れさせてもらったのだった。

けれど、ソフトは一つしかなく、二番目の住人のぼくは姉が満足しきった後かまたはお情けで少しやらせてもらう時以外、村でのスローライフを満喫することはできなかったし、悲しいことに、ぼくが二番目の住人として起きている間、同じ部屋で眠る最初の住人は、いくら騒ごうとも目を覚ますことはなかった。

 

そんなぼくがじぶんの村での生活を夢見てどうぶつの森を買うのに、時間はかからなかった。

引越しをする瞬間は忘れられないくらいエモくて、これから待つ希望あふれる生活に心躍らせたのを覚えている。

 

お好みのコーヒーを出してくれるマスター、夜のライブ、怪しい絵画を売ってくる画商に、どんどん大きくなるスーパーマーケット。

だれの名前も思い出せないくらいうろ覚えなのに、鮮明に思い出せることがある。

リビングを挟んで別々の部屋で寝ていた姉とぼくは、親におやすみを言った後に、布団にもぐりこんで、こっそりと通信をしていた。

夜中にお互いの村に行って、カブトムシを捕まえたり、釣りをしたり、お昼ではないからこそとれる生き物たちやイベントを求めて、よく遊んだ。

布団の中でこっそり遊んでいるというドキドキ感は、夜の村という特別感もあいまって、ぼくらをワクワクさせて、なんだか大きな冒険の旅に出ているような気分にさせてくれた。

 

そんなこんなでどうぶつの森にハマったぼくらをうらやましそうに見ていた兄が、ぼくの村の二人目の住人となった。

同じ村に住む、というのは同じ家に住むのと同じかそれ以上に難しいもので、まるで土足で踏み込んできた盗賊なみに不快に感じてしまうのをぼくはこの後知ることとなる。

 

うろ覚えなのだけれど、「おいでよ どうぶつの森」には、金の釣竿、金のオノ、金のスコップなどが存在して、ある一定の条件を満たすと手に入れられるようになっていた。

インターネットもろくに使えないその時は周りの人たちの情報に頼るしかなくて、確か埋めて一週間待つことで金のスコップが手に入る、というのがもっぱらの噂だった。

スコップは無事に金のスコップになって、金の成る木を実らせることに成功したのだけれど、そこで再び、同じ手順をふめば金のオノが手に入るらしいという噂をきいたのだった。

さっそくぼくはオノを埋めて、3日4日と待っていたのだけれど、そこで二番目の住人である兄が登場することとなる。

 

そもそも、土の中に何か埋まっているとバッテンマークでわかるようになっていて、掘り起こすとレアな化石やよくわからないアイテムが手に入ることがあった。

だからバッテンマークがあれば本来ためらうことなく掘り起こす。

ただ、ぼくは金のオノ制作のため、あそこは掘り起こしたらダメだよ、と兄に言っていた。

けれど兄は何度ぼくが言っても、間違えて掘り起こしてしまって、しかもあと少しで一週間、というとこで毎回やるものだから、ぼくはとてもとても腹が立っていた。

 

もう次やったらこの村から追放するからね、と言った3日後、兄は再び掘り起こして、しかもそれを黙っておかずきちんとこちらに報告するものだから、怒ったぼくは兄を村から追い出した。

こうきくと、兄がやばいやつに見えるかもしれないが、たぶん本当は、兄がミスったのは一回か二回くらいで、我慢できなかったぼくが、じぶんの村なのをいいことに、横暴にも追い出してしまったのだと思う。

今となってはひどいことをした、と反省をしているが、当時のぼくはたぶん、邪魔者がいなくなって満足していた。

 

金のオノは刃こぼれしない、最強のオノで、ぼくはどうしてもほしかった。

手段は選んでいられなかった。

金のオノを埋めて、ようやく、一週間後に、満をじして掘り起こす。

 

 

オノはオノのままだった。

さよならお兄ちゃん。

ごめんよ、お兄ちゃん……。