あおたのはなし(僕の愛してやまないイギリスファッション考察)


僕の愛してやまないイギリスファッション考察の第一回目~ブレザー編~

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ブレザーと聞いて多くの人はアイビーやプレッピーといったアメリカンカジュアル、アメリカントラッドを思い浮かべるだろうが、ルーツはもちろんイギリスにある。
ブレザーとはジャケットの一種であり、形状により「リーファージャケット」又は「スポーツジャケット」と呼ばれる。しかし、この二種類のジャケットは起源も全く異なり、別タイプの上着が同じブレザーという名前で呼ばれるようになっただけだと考えられている。
この二つの大きな違いは前合わせがシングルかダブルか。
スクールジャケットと呼ばれるのは一般的にシングルのもの。左胸のパッチポケットにエンブレムのモチーフが付くことが多く、明るい色調が多く採用される。
一方のリーファージャケットは金属製の足つきボタン(シャンクボタン)付きのダブルの型のもの。左胸にはウェルトポケット、腰には切込み式のフラップポケットが採用されている。カラーは紺や黒、一部で白いものが見られる。現在でも世界中で海軍や沿岸警備隊に制服として用いられている。

 


~シングルタイプ~

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18世紀のイギリスの貴族の乗馬服に由来するモーニングコートから変化した、クリケットやテニスの際に着用したジャケットから来ていると考えている。
1829年、ロンドンはテムズ川にてケンブリッジ大学とオックスフォード大学対抗のレガッタ(ボート競技)によるボートレースが開催された。その時に、現在でも残るケンブリッジ大学のセント・ジョンズ・カレッジのボート部「レディー・マーガレット・ボート・クラブ」の漕ぎ手たちが、母校のカレッジカレーでもある燃えるような赤を意味する「Blaze」色のフランネルのジャケットを着用したことがシングルタイプのブレザーの起源であるとされる。
これはボート部員たちが防寒用に着用するフランネルジャケットで、現在でいうウィンドブレーカーのような緩いアウターとして機能したようだ。どのボートクラブも遠くからでも認識できるように派手な色やストライプ柄を用いていた。ケンブリッジ大学の赤いジャケットは「ジョニアン・ブレザー」(ジョニアンとはケンブリッジ大学の学生の意)と次第に呼ばれるようになり、「ブレザー」という呼び名が一般化していったと言われる。


時代は19世紀も後半になると、ボート部だけではなく、クリケットラグビー、サッカー部でも採用するようになる。クリスマス・キャロルの著者としても知られるチャールズ・ディケンズ編纂による1885年の辞書にも、「正式なクラブカラーを使用した運動部員用のフランネル・ジャケットをブレザーという。レディ・マーガレット・ボート・クラブの赤いジャケットから来たと思われる。」19世紀の後半にはルーズフィットで緩い着用感のカジュアルなジャケット一般をブレザーと称するようになる。20世紀にはアメリカのアイビーリーグ系の大学でも広くブレザーが採用されるようになる。

 

 

~ダブルタイプ~

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そもそも前合わせがダブルのジャケットのルーツはポーランドの騎兵隊の服装にあると言われている。これは乗馬の際に風の吹きこみに合わせて襟を左右で変えられるダブルブの前合わせが生まれた。18世紀には世界中で広く軍服に使われるようになり、19世紀の初めにはプロイセン軍の軍服であったプルシアンブルー(日本でいう紺青)のフロックコートがイギリスに広まり、イギリス海軍の将校や軍上層部の制服にもネイビーブルーのフロックコート(昼間の男性用の礼服)でダブルの前合わせが採用された。
このイギリス海軍の将校のフロックコートを動きやすいように丈を短くしたのが士官候補生用の制服「リーファージャケット」と呼ばれるものだ。リーファーとは士官候補生の俗称である。現在でもリーファージャケットの多くに金属製の足つきボタン(シャンクボタン)が付くのは軍服の名残である。(特に上層部の軍人が着用する軍服には金ボタンが多く採用される)
このダブルタイプのジャケットの「ブレザー」という名称の由来は、19世紀の半ばイギリス海軍フリゲート艦(巡洋艦)の「ブレザー号」であると考えられる。ブレザー号の艦長がジャケットを揃え、乗組員の全員が制服として着用した。また、即位後間もないヴィクトリア女王の訪問に際し、新調した真鍮製のメタルボタンを付けて歓待したこころ、彼女に非常に喜ばれたそうだ。そのために現在でも金属製ボタンが広く使用されているという逸話も残っている。
この二つのタイプの細かいディティールの違いは文字の関係上、今回は諦める。